「不幸だと思ったできごとが、実は思いがけない幸福への入り口になることだってあるのですから、コロナ禍の間に暮らしを見直し、価値観を変えることで、次の道が開けるかもしれません」(撮影:本社写真部)
作家・瀬戸内寂聴さんが9日、99歳で逝去されました。2021年1月には、読者に向けてメッセージをくださった瀬戸内さん。その言葉一つ一つが胸にしみわたります
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今も仕事で徹夜をすることがあるという。100歳が目前に迫り、体に不調はあるものの、十分幸せだと感じる理由とは――(構成=篠藤ゆり 撮影=本社写真部)

価値観を変えれば次の道が開ける

世界中で新型コロナウイルスの感染が拡大するという思わぬことが起きた2020年が終わり、2021年を迎えました。

最近の寂庵はとても静かです。出かけることもできないし、人様に「いらっしゃい」とも言えませんから。毎月行っていた法話や写経の会を開くこともできません。それをすればお堂はいつも人でぎゅうぎゅうになるので、まだ当分は難しいでしょう。

そういうわけでいつもは静かな寂庵ですが、秘書の瀬尾まなほが子どもを連れて来た日には、賑やかになります。1歳になったばかりの男の子ですが、本当にかわいいの! 将来、ものすごいイケメンになるんじゃないかしら。

子どもの成長というのは、本当に早い。ついこの前生まれたばかりだと思っていたのに、もう小さな歯が2本生えて、髪の毛も、ふさふさしてきました。一方、私は髪の毛がないので、子どもは最初は不思議そうな表情で私のことを見ていましたよ。でも今はすっかり慣れたようで、仲良く一緒に遊んでいます。

私は若い頃、4歳の娘を置いて婚家を飛び出してきたため、自分の孫を抱く機会がありませんでした。それなのに今、こうして身近にいる赤ん坊と、無心になって戯れているのですから、つくづく人の巡り合わせは不思議なもの。

5月に誕生日を迎えれば、私は99歳になります。もう99年も生きてきたのかと、自分でも驚いてしまいます。