イラスト:マルー
阿川佐和子さんが『婦人公論』で好評連載中のエッセイ「見上げれば三日月」から。
あなたは新幹線に乗るとき、窓側と通路側のどちらがお好みですか? 阿川さんは窓側、さらに東海道新幹線で西に向かう場合は、進行方向の右の列のほうだと言います。それには諸事情があるようでーー

新型コロナの感染者数がまたジワジワと増え始めている気配があるけれど、人々の移動度合いはむしろ高くなってきたように思われる。私にも少しずつ地方での仕事や用事が復活し始めた。ここ数ヶ月で、仙台、広島、石巻、大阪、広島、名古屋と、なんだかんだで毎週のように新幹線に乗っている。

コロナ騒動以来初めて新幹線に乗ったときはちょっと緊張したけれど、回を重ねるうちに慣れてきた。慣れることがいいのか悪いのか。わからないが、車内には頻繁に「常時マスクを着用してください」「換気は六分から八分ごとに行っております」「座席の回転はご遠慮ください」「大声での会話はお控えください」などと細かい注意喚起のアナウンスが流れるし、一方の乗客たちもそれぞれの座席にておしなべて静か。マスクをきっちり口に当て、お手洗いへ立つときもできるだけ他人との距離には気を使っている気配が伝わってくる。ここまで万全を期した環境にいるかぎり大丈夫だろうと小さく安堵する。

かくいう私はときどき息苦しくなってマスクを外したい衝動に駆られるのだが、さりげなく周囲を見渡すと、見事に皆さん、マスクをつけたままスマホと対峙したり読書をしたり寝たりしておられるので感服。日本人はなんと従順であることよ。おかげで私も「よし、我慢しよう」という気になるというものだ。

コロナとは関係ないけれど、昔から新幹線に乗るときは、なるべく窓際の席を取るようにしている。ことに東海道新幹線に乗って西へ向かう場合は、進行方向へ向かって右の窓際が好ましい。

なぜか。

いろいろ個人的事情があるからです。