撮影:本社写真部
親として、「働けない」子どもをどのように見守ったらよいか。「ひきこもり」を社会に広く認知させた精神科医の斎藤環さん、若者の貧困について長年フィールドワークを続けるエッセイストの雨宮処凛さん、NPOで就労支援に携る工藤啓さんが語り合う

長くひきこもっていると、自分の欲望が低下してしまうことが多いので、まずはそれを回復させるような支援が必要です(斎藤さん)

極度に低い自己評価を、どう高めていくか

斎藤 私は精神科医として、ひきこもりの人たちに長くかかわってきました。ひきこもりという言葉が一般的になった1995年当時は、「贅沢病」などと批判する人もいましたが、最近は支援が必要だという認識が多少は広がってきたようです。

工藤 僕は2004年から、今は働けないけれど経済的に自立したいという希望を持っている人への就労支援をしています。働けない理由はいろいろですが、ひきこもりや対人不安、発達障害の人が多いですね。始めた頃は30歳前後で来る人が多かったのですが、最近は20歳前後の人が増えている。ご家族を含めて、NPOなど他者に相談することへのハードルが下がってきたのでしょう。

雨宮 私は、非正規雇用で貧困の状態にある人たちをずっと取材してきました。超就職氷河期を経て、就職できないままきてしまった“ロスジェネ”と呼ばれる世代も、今や30代半ばから40代半ばの中年になった。ロスジェネの人口は約2000万人で、そのうち未婚で実家暮らしの人が約300万人います。17年の非正規労働者の平均年収は175万円、女性に限っていえば150万円です。これでは生活保護と、年収で20万円しか差がない。このように収入が少ないために親元を出られない人もいれば、ブラック企業に勤めてうつ病になって働けなくなる人、働いたり働かなかったりを繰り返す人もいます。

工藤 今まで働き方に関しては、頂点に正社員がいて、次に派遣や契約社員、その下にアルバイトという階層ピラミッドがあると考えられていた。就労を支援する側も、その階段を上らせることを目標としていたところがあります。でも、たとえば週5日電車に乗って会社に行くことができない人、身体がつらい人に、それを克服させるような支援は果たして正しいのか。「働く」には多様な形があるはずなのに、「働く=雇われる」と考えがちなのではないか。ここ数年、自分の中でも疑問が湧いてきました。

雨宮 週5日、決まった時間に出社して働くなんて無理だ、という人はけっこういます。また、そもそも40代になって正社員を目指すのは難しい現実もあります。

工藤 うちに来ていた若い女性で、働けないけれど、ピアスを作れる人がいました。彼女とピアスをインターネット上のハンドメイドマーケットに出したところ、すぐに売り切れました。見知らぬ人が買って、しかもそのピアスをつけた写真をSNSにアップしてくれたことが、彼女にとって大きな自信になりました。すると、ピアス作りだけでは食べていけないので、ほかのアルバイトもできるようになりたいと、意欲が湧いてきたのです。

斎藤 ひきこもりやニートの人たちは、極度に自己評価が低いので、どうやってそれを高めるかが大事です。人から認められたり、少しでも稼げたりすると、それが足がかりになり、次に進む自信にもなります。

工藤 ところが多くの親御さんは、コンビニでバイトして月に6万円稼げば前進したととらえるけれど、ネットで何かを売って月6万円稼いでも「働いていない」と受け取りがちです。親が評価してあげることがすごく大事なのですが。