絵:石黒亜矢子
詩人の伊藤比呂美さんが『婦人公論』で連載している「ショローの女」。夫が亡くなり、娘たちも独立、そうして伊藤さんは20年暮らしたアメリカから日本に戻ってきました。
3年間早稲田大学で教鞭をとった伊藤さん。この1年はオンライン授業となり、キャンパスに集うことがかなわない学生たちの孤独や不安に向き合った日々でもありました。最後の授業を終え、「せんせい」としての時間を振り返ると

早稲田の最後の授業がきのう終わった。

三年間、長かったような短かったような。ものすごく濃かったような。

今は虚脱している。締切もあるし、クレイマーの散歩もあるから、虚脱していられないのだが、それでもなんだか立ち上がる気にもなれない。家の中はここ数週間荒れ果てたままで、台所もごちゃごちゃ、トイレも猫トイレの猫砂だらけ、植物は枯れ葉だらけ、猫たちが来てから床の上に物がいろいろある(おもちゃのねずみとかその一部とか、紙袋や段ボール箱とか)、それでなかなかモー(ロボット掃除機)がかけられないのだ。

最後の大教室(三百人前後)の授業はあっけなかった。チャット欄に学生たちが「ありがとうございました」と投げてくれたが、それなら毎週やってくれてる。特別な感じはぜんぜんなかった。対面式の授業だったとき、学期最後の授業には毎回拍手がわいた。みんながあたしをみつめていた。今回は「じゃ、またね」と言ってボタンを押したら、Zoomが閉じて、みんな消えた。