ゴルフ用品店に赴いて、バッグ売り場の床に座り込み、居並ぶバッグのチャックを開けたり(口が小さいとモノを入れにくい)、手に持って重さを比べたり(できるだけ軽量なバッグがいい)、あれやこれやと吟味して、ようやく一つを選び取り、購入して持ち帰った。

今、私の前に新しいボストンバッグと古いボストンバッグが並んでいる。さあ、交代の儀式を始めるぞ。厳粛な気持で見比べるうち、ふと亡くなった母の顔が蘇った。思えばこのバッグはもともと母のものだったのだ。「使わないならちょうだい」「ああ、いいわよ」と、半ば無理やり譲ってもらった品である。母はこのバッグを気に入っていたのだろうか。母と一緒にあちこち旅をしたかもしれない。そう思うと安易に捨てられなくなった。だからといって永久に取っておくわけにもいかない。ここまでボロボロになるほど使い切れば、母もきっと許してくれるだろう。そうだね、捨てよう。でも待って。いや、捨てよう、でも待ってと心は千々に乱れ、結局、古いバッグを廊下に放置して、毎日、眺めている。

変化には、もれなく惜別がつきまとうから困るね。


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