「なんか、小さくなったな……」と夫

健康な人を意識して作られたものはすべて、当時の私には負担だった。戻ったと思っていたパワーは、普通の世界では限りなく貧弱で、頼りないものだった。ドアノブを握った手が、手首が、別人かと驚くほど細くなり、ノブの冷たさが、固さが、心身共にダメージを与えた。こんな世界があったのかと驚き、そして、自分は何も分かっていなかったと悟ったのだ。

動いていなければ呼吸はできる。しかし、一旦動けば思うように肺に空気がはいっていかない。暖かい繭のような病院の外の世界に出た途端、空気の限りなく薄い高山に放り出されたようなものだ。寒い、苦しい、肺が痛い。完全復活していたはずの自分が、実は立派に病人なのだという現実を次々と突きつけられ、精神的に追いつめられた。それも玄関ドアが重いだなんて、想像もしていなかった。自分がとても小さくなってしまったように思えたし、実際、私は小さくなっていた。駐車場で私を見た夫が、「なんか、小さくなったな……」とつぶやいたのを、しっかりと私は聞いていたのだ。

ようやく玄関ドアを開け、ゼエハアしながらバックパックを降ろした。荷物は夫に任せて2階のリビングに向かったのだが、階段をスムーズに登ることができない。2段進んでは立ち止まり、喘ぐように呼吸し、また2段進んで立ち止まるといった状況だった。酷い目眩がして、倒れそうになった。