イラスト:マルー
阿川佐和子さんが『婦人公論』で連載中の好評エッセイ「見上げれば三日月」。阿川さんといえばショートカットが定番で、しかもセルフカット派。ところが、コロナ禍のせいなのか、長年の自分のスタイルにも変化が――

前回、変化について書いた。そういえば、もう一つ変化させたことがあった。新年を迎えてからではないが、少々髪を伸ばしたのである。

巷の噂によると、この蟄居期間を逆手に取って、シミ取りをしたりプチ整形をしたりする人が多いと聞く。しばらく人目に晒されなければ秘かな変化に気づかれずに済むという魂胆か。なるほどね、と感心し、シミ取りやナントカ注入に挑戦する気概もないので、思いついた。ちょっと髪型を変えてみるかな。

すでに公表済みではあるけれど、私は長らく美容院へ行っていない。髪の毛を自分でカットするようになって久しい。コトの発端は、親の介護と仕事に追われてゆっくり美容院へ行く時間を取りづらくなったせいだ。洗面所の鏡の前に立ち、伸び始めた髪の毛を見つめ、「あー、カットしたい!」という衝動にかられたとき、ふと手元にあった鼻毛切りハサミを握り、試しに前髪を切ってみた。

「あら、ちょっとスッキリしたわ」

昔から幼い弟のヘアカットは私の担当するところであった。縁側に椅子を持ち出し、弟を座らせて、ビニールの風呂敷を首に巻きつける。その横のスツールに私も腰を下ろし、ハサミと櫛を左右の手に握り、床屋さんになった気分で弟の髪の毛を垂直に持ち上げ、毛先をチョキン。場所を変えてまた持ち上げてチョキン。こうすれば散切り状態にはならない。ほどよく長さが不揃いになり、

「ほらねー、姉ちゃんはカットの天才だね」

弟が褒めてくれたわけではない。私の自画自賛である。

そんな修業のときを経てはるかのち、自らの髪の毛を切る習慣がつくにつれ、たしかに腕は上がったかに見られた。前髪のみならず頭のてっぺんや襟足のカットもそれなりにできるようになった。当初は肌を切るのを怖がって切っ先が丸くなった鼻毛切りを使っていたが、今や本格的なヘアカット専用のハサミを使っている。

「えー、自分で切ってるの? 上手ー!」

まわりの評判も上々で、その気になった私はますます美容院から足が遠のいた。