飼い犬のハリーと向き合うのは・・・(撮影:村井さん)

「普通の暮らしは出来ますか?」

5分も待たずに名前が呼ばれ、とうとうA医師の待つ診察室に入った。体が斜めになりつつ入ってきた私をA医師はピッカピカの笑顔で迎え入れてくれた。デスクの上に置かれた資料はたぶん、私の主治医から送られてきたものだろう。モニタには様々な情報が映し出されていた。きっと、私が受けた検査結果などが表示されていたのだろう。A医師は私を見て、「どうですか? 普通の暮らしは出来ますか?」と聞いた。

普通の暮らし?

私の答えは一択だった。

できません。もう階段を登ることさえ、困難です。

するとA医師は「そっかあ……」と言い、「あなたのケースは手術できます。助けられると思います。どうなさいますか?」と単刀直入に聞いた。私も即座に「お願いします」と答えた。するとA医師はスケジュール帳を開き、「えーっと、それじゃあこの週の、この日ね!」と明るく、あくまでもカジュアルに手術日を決定し、そして「がんばりましょう。大丈夫、僕らに任せて下さい。絶対に治すからね」と言ってくれたのだった。

私の長い人生で、こんなにも重い決断が、こんなにも明るく下されたのは、最初で最後ではないだろうか。私も拍子抜けし、同時に「それじゃあ頑張るしかないな」という気持ちになった。

この瞬間から、二度目の開胸手術が私にとって現実的で、唯一の選択肢となったことを本当の意味で理解できたのだと思う。

 

次回●「退院する日、私はこの〈王将〉で餃子を食べる!」と誓った話

【この連載が本になります】
『更年期障害だと思ってたら重病だった話』
村井理子・著
中央公論新社
2021年9月9日発売

手術を終えて、無事退院した村井さんを待ち受けていた生活は……?
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