絵:石黒亜矢子
詩人の伊藤比呂美さんが『婦人公論』で連載している「ショローの女」。夫が亡くなり、娘たちも独立、そうして伊藤さんは20年暮らしたアメリカから日本に戻ってきました。
コロナの外出自粛で体重が増えたという話、よく聞きますが、伊藤さんもご多分にもれず。薄着の季節、そろそろ余分なお肉が気になってくるころでもあります

この間人間ドックをやった。

早稲田に入るときにやれと言われていたやつで、何回か「やってませんよ」という注意がメールで来て、そのたびにやりますやりますと返しながら、あんまり忙しくて放ったらかしにしてあったのだった。

費用は大学が払ってくれる。ああ、勤め人ってなんて楽なんだろう。そしてフリーランスの物書きという仕事はなんて不安だらけで保護されてなかったんだろう、そしてまたそういう不安だらけの生活に戻る。

どうせならと考え、「もうすぐ退職ですけどできますか」と問い合わせたら、「退職するまでできます」ということで、ついに近所の病院でやってみたのだった。

あたしは糖尿病だから、三ヵ月に一ぺんずつ検査に行くことになっている。アメリカではそうだった。アメリカの医者は予約制で、予約してかかりつけ医に会ってその場で次の予約をした。でも日本は予約制じゃない。自分で思い立ち、重たい腰を上げ、混んだ中で待たねばならないから、おっくうで行かなくなってしまった。糖尿病といっても境界線上で、薬を飲まなくてはいけないような、そんな状態ではない。

アメリカのかかりつけ医からは「ズンバを止めてはいけません」と三ヵ月ごとに言われていた。つまり彼女はあたしがどういう生活をしているかちゃんと知っていた。日本のかかりつけ医は人間的に扱ってくれないから、そんな会話をすることもない。