天気がいい日は庭に面したベランダのラタンの椅子に座ってゆっくりするのが好き。庭や鳥を飽きることなく見ていられます
2020年8月、東京から鹿児島県鹿屋(かのや)市に移り住んだ料理研究家の門倉多仁亜(かどくら・たにあ)さん。ドイツ人の母を持ち、幼い頃から海外と日本、数多くの転居を経験するなかで大事にしてきたのは、「今いる場所でいかに快適に暮らすか」ということ。新たな暮らしでもそれを実践しています(構成=福永妙子 写真提供=門倉さん)

好きなものを選んでスッキリ暮らしたい

夫の実家がある鹿児島県の鹿屋に家を建てたのは12年前。東京で暮らしながら、月に一度ほど鹿児島を訪れ、自然に恵まれた鹿屋で何日間か過ごすのを楽しみとしていました。そうしたなかでのコロナ禍。東京の自宅で開いていた料理教室も中止せざるをえず、「この状況は長引きそう」と判断した段階で自宅マンションを引き払い、鹿屋に移ることを決めました。

転居の際、考えなくてはいけないのが、何を持っていき、何を持っていかないか。これまでとは家のスペースも間取りも違います。それに、ものが多ければそれだけ引っ越しにお金もかかるし、持っていった結果、使えないとなると、気持ちの上でも重荷になります。

そこで、家具はすべてサイズを測り、鹿児島の家の図面の縮尺に合わせて絵に描いたものを「どこなら収まるか」「ここに置きたいな」と、配置を具体的にイメージし、どうしても入らないものはあきらめました。結局、タンス4つ、テーブル2つ、他にもずいぶん処分することになり、リサイクル店に引き取っていただきました。

心地よさの感じ方は人それぞれですが、私は限りある空間で、そのとき必要なもの、好きなものを選んでスッキリ暮らしたい。タンスの前が何かでふさがれて動きづらかったり、「ああ、あれが邪魔だわ」と感じることがストレスになるのです。

とはいえ、私は、必要最小限のものだけで暮らすミニマリストになる気はありません。せっかくたくさんの素敵なものが手に入るこの時代、《ものがあるから心地よく暮らせる》という部分もあります。自分が窮屈でない範囲内であれば、ものが多少増えてもOK。そこはバランスですよね。