日本の草花を四季に応じて紹介する『日本の花を愛おしむ 令和の四季の楽しみ方』(著:田中修 絵:朝生ゆりこ 中央公論新社刊)から、いまの季節を彩る身近な植物を取り上げ、楽しく解説します。今回のテーマは「『柳・楊(ヤナギ)』ようじにヤナギが使われた理由」です。

歯の痛みが楽になるから

 

「ヤナギ」が持つ毒から生まれた「薬の王様」

「ヤナギ」という名称は、葉っぱが枝垂(しだ)れているシダレヤナギ、花の集まりの銀の毛が猫のように見えるネコヤナギ(カワヤナギ)、柳行李(やなぎごうり)の材料になるコリヤナギなどのヤナギ属の植物を総称する言葉です。特に、シダレヤナギだけを指す場合も多くあります。

「ヤナギ」を示す漢字には、「柳」と「楊」があります。厳密に使い分けられているとは思いませんが、枝が垂れるヤナギには「柳」、ネコヤナギやコリヤナギのように枝が上に伸びるヤナギには「楊」を当てるといわれることがあります。

昔、食後などに使う「ようじ」には、ヤナギの木が使われました。「ようじ」は、漢字で「楊枝」と書きますから、楊枝は、もともと、「ヤナギの枝」からつくられていたことになります。

古くから、ヤナギの枝からつくられた「楊枝」を使うと、歯の痛みが楽になることが知られていました。ヤナギには、痛みをやわらげる成分が含まれているからです。

そのことを知っておられたかどうかはさておき、「お釈迦様は、いつもヤナギの枝をくわえていた」といわれます。虫歯に悩まされていたのかもしれません。また、ヤナギの樹皮は、防腐剤としても使われてきました。

ヤナギの属名は、ラテン語で「サリックス」です。ヤナギに含まれる成分は、その属名にちなんで「サリシン」と名づけられています。「サリシン」は、抗菌、鎮痛、解熱の作用をもちます。しかし、「サリシン」は副作用が強いので、その構造を少し変えて、「サリチル酸」という物質がつくられました。

サリチル酸は、その後、長い間、食品の保存剤、防腐剤として使われていました。しかし、近年は、薬害があることが危惧され、わが国では食品への使用が認められていません。

この物質には、熱を下げる効果があることも発見されました。そのため、鎮痛、解熱剤として使われました。しかし、サリチル酸を服用すると副作用が出るため、1897年に、この物質の構造を少し変えて、副作用を抑えた「アセチルサリチル酸」がつくられました。

それが「アスピリン」という薬です。この薬は、発売以来、世界中で利用され、「世界でもっとも多く使用された薬」として、「薬の王様」といわれます。植物のもつ有毒な物質を利用した「毒薬変じて薬となる」の代表的な例となっています。