イラスト:マルー
阿川佐和子さんが『婦人公論』で好評連載中のエッセイ「見上げれば三日月」。今回は9年半続いたトーク番組『サワコの朝』についてのエピソード。『聞く力』というベストセラーがあったからこそのプレッシャー、映像ではごまかしきれない癖……あのトーク番組の裏に、そんな奮闘があったとは。

9年半続いたテレビのトーク番組『サワコの朝』が終了した。聞き手の私とゲスト1人(たまに2、3人)しか出演しないシンプルな番組だった。

2011年の秋にこの番組がスタートした当初、私は週刊誌の連載対談の聞き手も務めていて、さらに同じ頃、インタビュアーとしての来し方を綴った『聞く力』という新書が、自分で言うのもナンですが、けっこう売れていた。その本の中で私は、「インタビューをするとき、手元にメモは置かない主義です」と豪語した。そう見得を切った上は、テレビの収録現場においてもメモや台本が置けなくなった。

しかし、雑誌対談と違い、スタジオでは煌々とライトを当てられ、大きなカメラが四台も終始こちらにレンズを向け続け、その周辺にはディレクターとかプロデューサーとか、たくさんの人が私の質問や動向を注視している。それだけでも緊張するというのに、こちらはプロのメイクさんにお化粧してもらい、着慣れぬお洒落な借り物衣装を身につけて、まことによそいきモードにならざるをえない。その衣装がまた、ときどきウエストの引き締まったデザインだったりすると、ちょっと油断した途端、真横から出っ腹をカメラに捉えられてしまう恐れがある。あるいは会話に集中するあまり、豪快に広げた足元を撮られてしまうこともある。つまり、雑誌の対談とは違うところに神経を働かせなければならなくて、聞き手としての業務に注ぐべき集中力を欠き、次はどういう話の展開にしようかと慌てて下を向いたところでメモはない。誰が「メモは置かずにインタビューすることが大事です」なんて言ったんだ!? 私です。

さらにここ一年あまりはコロナの影響で、ゲストと私の間に分厚いアクリル板が設置された。それはたいそう安心なことではあるのだが、いかんせん分厚い。アクリル板越しにお話を伺おうとすると、寄る年波に耳が遠くなってきた身としては、ゲストの声を聞き落とすこともしばしばだ。「はい?」と何度も繰り返す羽目となる。