第1回が配信されるやいなや、大きな話題になった翻訳家・村井理子さんの隔週連載「更年期障害だと思ってたら重病だった話」。47歳の時に心臓に起きた異変。入院後、苦しい経食道心エコー検査やカテーテル検査を乗り越え、病名は「僧帽弁閉鎖不全症」と判明。「神の手」と呼ばれる医師のいる大学病院に転院し、手術を受けることになる。ところが、心臓手術の翌日、待っていたのは歩行訓練。つらい…。『全員悪人』の著者が送る闘病エッセイ第16回。

前回●心臓が止まる寸前だったという事実を聞いても、完全に落ちついていた話

傷というか、骨が痛かった

手術翌日の朝、ICUで目覚めたと思ったら、予想以上のスピードで一般病棟に戻ることになったうえ、ぼんやりしている状態でリハビリまでスタートさせてしまった私だった。歩行器につかまり、息も絶え絶えに数メートル歩いて、体力のすべてを使い果たした大手術直後の私に、リハビリ担当の青年は、「明日はもっと歩きますからね」と無情にも告げて、病室から出て行ったのだった。すごいね……。

それにしても、ばっさり切られたばかりの傷が痛かった。いや、傷というか、骨が痛かった。胸骨を切り開いて行われた心臓手術で、それを想像するだけで卒倒しそうだった。実際に、私の胸骨は切り開かれていて、その傷のあたりは全体が腫れて、とんでもないことになっていた。痛いというか、なんだこれは!? の状態なのだ。

術前のインフォームドコンセントの席で、執刀医のO先生が、「ノコギリで切ります!」のようなことを、元気よく言っていた。確かに、切られている。これは骨を切られた痛みだ。あまり経験したことのない痛みだ。重苦しい、気力を根こそぎ削ぐような、とんでもない痛み。このまま長い眠りについてしまいたいと心の底から思ったほど体が重かった。意識を失っていたほうが楽だった。