飼い犬のハリー(写真提供:村井さん)

そのおじいさんは、私の横でバイクを漕いでいた。一緒にバイクを漕ぐ私たちの目の前のテレビに映っていたのは春の選抜高校野球大会だった。私がぼんやりその映像を見ていると、おじいさんが話しかけてきた。

「あんた、手術、したんか?」
「はい、しました。僧帽弁閉鎖不全症で」
「そうか。わしは手術できひんかった。年が年やしな」
「……そうだったんですね」
「あんたまだ若いんやから、人生これからやで。がんばりや」
「あ、はい……」

こんな時に限って、何も言えない私だった。でも、おじいさんの、とてつもない心の広さと、優しさは十分感じとっていた。

「家に戻っても、無理したらあかんで。休みながら暮らせばいい。無理はせんと、自分を一番大事にな」

そんなおじいさんの言葉を聞きながら必死にバイクを漕ぎ、絶対に回復してやると誓ったのだった。
 

次回●命がけで手術をするほどこだわっていた世界に、突然戻りたくなくなった話

【この連載が本になります】
『更年期障害だと思ってたら重病だった話』
村井理子・著
中央公論新社
2021年9月9日発売

手術を終えて、無事退院した村井さんを待ち受けていた生活は……?
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