綿矢りさ『蹴りたい背中』河出文庫

はじめてちゃんと他者をつかまえる

主人公の名前はハツ。

彼女はこの孤独な理科室で、ある男子と出会うことになる。

5人一組の班で、自分と同じようにあぶれている、もう一人の班員だ。

男子の名はにな川。彼は、ある女性向けファッション誌を読んで、実験の時間を潰していた。それはどう考えても一般的男子高校生が読むような雑誌ではない。ハツはにな川に興味を持って声をかける。彼が読んでいたファッション誌に載っていたモデルを、駅前で見かけたことがあったから。

「私、駅前の無印良品で、この人に会ったことがある。」

そう言ったハツを、にな川は、「がらんどうの瞳」で見ていた。

『蹴りたい背中』は、すごくざっくりまとめてしまうと、「ひとりだったハツが、にな川という他者とはじめて出会う」までの小説である。

孤独だった主人公が、はじめてちゃんと他者をつかまえる、つかまえたいと思う相手を見つける話なのである。

といっても、にな川とハツが恋人になったり、ものすごい濃密な交流をするわけではない。

ふたりの関係は、最終的には世にも有名な「にな川の背中を、ハツが蹴る」場面で終わる。