すこしでも影響を与えようと

背中を蹴ること。それがこの小説の、「他者と出会う」ことを表現した、ある意味他者を発見するシーンなのだと思う。

なんでわざわざ「背中」を蹴るのか。それは、にな川が他者だからである。

ハツはにな川のほうを向いているが、にな川はハツのほうを向いているわけではない。にな川はオリチャンのこと(※彼が夢中になっているモデル)を考えている。つまり、別にお互いがお互いのことを想っているわけではないのだ。

そんなにな川に対して、すこしでも影響を与えようと、ハツは、せめて彼の「背中」を蹴る。

にな川は、孤独だった主人公がはじめて見つけた、「蹴りたい相手」だった。つまりはちゃんと関わりたいと思った他者なのだ。

タイトル『蹴りたい背中』は、「孤独だった私がはじめて出会った、関わりたいと思った他人」をものすごく文学的に表現した言葉なのである。――身も蓋もなく言ってしまえば、「はじめてムラッときた相手」みたいな感じです。ね、文学的だよね。

その証拠にこの場面、冒頭の場面からの対比がうまく効いている。

にな川の背中を蹴る。すると「親指の骨が軽くぽきっと鳴った」。