人をひきつける文章とは? 誰でも手軽に情報発信できる時代だからこそ、「より良い発信をする技法」への需要が高まっています。文筆家の三宅香帆さんは、人々の心を打つ文章を書く鍵は小説の「名場面」の分析にあるといいます。ヒット作『文芸オタクの私が教えるバズる文章教室』の著者の連載。第7回は「別れ」の名場面について……

第6回「《孤独》~綿矢りさ『蹴りたい背中』に見る名場面」はこちら

「別れ」が生み出した数々の名台詞

小説の名場面をご紹介する本連載。いままで「出会い」や「片思い」など、いろんな人間関係の展開をご紹介したが、今回は、その最後にふさわしいテーマ。「別れ」の場面だ。

私は、「別れ」は、台詞に込められる、と思っている。

今回のテーマは「別れの場面」。

古今東西、別れといえば、さまざまな名場面がある。

たとえば映画の『カサブランカ』。世にも有名な「君の瞳に乾杯」という台詞は、『カサブランカ』の別れのシーンの決め台詞。いやもう本当にイングリッド・バーグマン演じるイルザが美しくて美しくて、「なんでこの美しい女性を目の前にして別れを決意できるのか!」と絶叫してしまいそうになる場面だ。まあ、だからこそ主人公の男の美学が際立つわけですが。

あるいは、おなじく映画であれば『スタンド・バイ・ミー』でゴーディが「さよなら」というと、クリスが「またなって言えよ」と返すシーン。いやもう名台詞! 少年たちの切ないけれどちょっとやさしい別れを表現した台詞になっている。

小説だと『風と共に去りぬ』の、スカーレットとバトラーが別れたあとのラストシーン、「明日は明日の風が吹く」という台詞が有名ではないだろうか。

そのほかにもたくさん、「別れの場面」を思い浮かべるだけで、ありとあらゆる物語の名場面が頭をよぎる。

そう、別れの場面には、ドラマチックな名台詞がつきもの。

別れは、名台詞の親なのだ。