小説と映画で異なる別れの描き方

そう考えてみてあらためて小説の海を見渡してみたとき、私がいちばん好きな「別れ」の描写もまた、名台詞とともにあった。

「ジョゼと虎と魚たち」という田辺聖子の短編小説がある。実写映画にもなっていて、原作小説も実写映画もどちらも本当に素敵な作品なのだが。

小説と映画でいちばんちがうのが、別れの描き方だったのだ。

「ジョゼと虎と魚たち」の主人公は、自分のことをジョゼと名乗る女性。足が不自由で、車椅子がないと動けない。彼女と恋人関係になるのが、ひょんなことからジョゼとかかわることになった大学生の恒夫だった。

小説はとても短い作品で、ふたりはするっと恋人になる。恒夫は大学を卒業し、ジョゼと同棲するようになる。

そして、小説は、その別れをはっきりと描かない。

しかし一方で、実写映画は、ふたりが別れたことをはっきりと描いた。「結局、ジョゼと恒夫はうまくいかなかったけれど、それでもジョゼは元気で暮らしている」ということを示唆するラストシーンで終わるのだ。