田辺聖子『ジョゼと虎と魚たち』角川文庫

いつ来るともしれない別れが大前提にあるけれど

ジョゼは、今この幸福をかみしめていて、でもそれが永遠に続くわけではないことを分かっている。しかしどこかにある別れが来るまでは、その幸福にたゆたうと決めている。なんだか、人と出会って別れることそのものに対する、ジョゼの覚悟や諦め、そしてこれまでの恒夫との関係において内省してきた時間が、すべて伝わってくる。

ジョゼは、ただこの幸福をいまは享受する。それはいつ来るともしれない別れが大前提にあるけれど、でも、それでいいのだ、とジョゼは感じている。

死ぬことみたいな、完全無欠の幸福を、いまはただ享受する。……この台詞には、「恒夫とジョゼの関係」が内包されている。

この台詞が私たちの心を打つのは、ジョゼの、恒夫に対する情がこれでもかと伝わってくるからだろう。

ジョゼにとって、「恒夫の存在は、自分の人生で一瞬登場した、思いがけない幸福だった」ことが、伝わってくるのだ。