まさに車検を終えた車のように

しかし大学病院の方は、元気だったら退院していいですよ? 早く出な? というスタンスで、私に対しては、あとは消化試合のみという雰囲気が濃厚だった。最初、病院側から伝えられていた入院期間は3週間で、そろそろその3週間も終わりに近づく頃になると、とにかく、看護師さんがやってこないし、先生もやってこない。だって、元気なんだもの。

時折ふらりとやってくる担当のK先生が、「退院前に食事管理について少し学んで帰ってもらいます。ほら、塩分制限とか血糖値とか、いろいろとありますし。まあ、車検に出したと思って、最後まで頑張って下さい」と、次々と退院前のレクチャーの予約を入れてくる。当然なのだ、だって元気なんだから。

私は仕方なく、しばらく暮らした個室の片付けをしたり、食生活の改善について学んだり、しばらく連絡出来ていなかった仕事関係先に退院の連絡をしたりと、徐々に外の世界へ戻る準備をスタートさせた。

一度気持ちが切り替わると不思議なもので、今度は外の世界になんとか順応すべく、対策を練る時間がうってつけの暇つぶしだった。この辺りから、仕事に対する熱意も戻り始め、遅れている様々な原稿のことが気になるという状況になった。

自分でも、なんて不思議な3週間だったのだろうと思わずにはいられなかった。一人でやってきて、大きな手術を受けて、このままで行けば私は目標通り、一人で元気に歩いて退院することができる。あれだけ具合が悪く、深刻な心不全と言われたのにもかかわらず、救急病棟に入院してから3ヶ月で、手術やリハビリを終え、こうやって健康な体を取り戻し、まさに車検を終えた車のように、また走り始めるのだ。

そうだ、私はまた、元の人生を走るんだと納得したあたりで、とうとう退院の日となった。