先日は、出先でしでかした。八百屋さんに立ち寄ろうとして、マスクをしていないことに気づき、上着のポケットを探るがない。ならばズボンのポケット……にもない。バッグに手を突っ込むが出てこない。とうとう路上に腰を下ろしてバッグの中身をすべて外に放り出し徹底的に探し始めるが、どうしても見当たらない。先刻の場所ではたしかにつけていたのに、いったいどこで失くしたのか。

途方に暮れた。野菜を買うのを諦めて帰るか。あるいは一度、帰宅して出直すか。しばし迷った末、タオルハンカチを口に当て、なるべく息を止め、籠を片手に乗り込んだ。

「らっしゃーい」

威勢よき声に出迎えられるが返事ができない。頭をこくりこくりと縦に振りつつ必要な野菜を探す。茄子、ピーマン、トマトと、みょうがを買っておこう。あと、いちごもおいしそうだ。急いで籠に入れ、レジへ向かう。

「ああ、毎度!」

顔馴染みのおばちゃんに挨拶され、私はハンカチの中で囁く。

「ごめんね。マスク、してなくて」

「あるよ。一枚あげよっか」

タオルハンカチを口に当てて私は首を横に振る。大丈夫、大丈夫、ウチに帰ればあるからと、目と手振りで伝える。エコバッグを広げ、ここに入れてねと無言で指を差し、会計を済ませて店を出る。ハンカチをはずし、ようやく大きな息をしながら、罪でも犯したような罪悪感が残る。

その日以来、私は予備のマスクを持ち歩くようになった。ハンドバッグの内ポケットに一枚、資料を入れる布袋に一枚、そして一枚を顔に当て、「行ってきまーす!」だ。これなら安心。たとえ一枚を見失っても、二枚の予備マスクが待機している。リスクマネジメントとはこういうことを言うのだろう。