一方、空き家は――。
「一時停止の状態なんだ。ポーズだな。画面は暗くならずに、ただ停まってるだけなんだ。だから、一時停止を解除するだけで、すぐにまた再生が始まる」
 この譬えには自信があった。孝夫本人が初めて空き家を訪ねたときに感じたことなのだ。
 だが、西条記者にはピンと来なかったようで、「はい……」と曖昧な返事をしただけだった。
「まあ、行ってみればわかるさ」
 実際に空き家に入ってみればいい。それでなにも感じないようなら、柳沢には悪いが、彼女にはジャーナリストの才能はないだろう。

「現場は、空き家になってまだ五年目だ。オーナーさんの私物も残ってるから、気をつけてくれ」
 撮影をしないことと、原稿で個人情報を明かさないことを、あらためて約束させた。
 もっとも、西条記者は返事もそこそこに、「それより――」と話題を変えた。
「『ネイチャレンジャー』って、今月からネットで配信してるんですね」
 本題はそっちかよ、と脱力した。
「ゆうべ観ました。とりあえず最初のほうの三話だけですけど、十年前だから、くんとかくんとか、みんな若いんですね」
「まあな……」
 違うだろ、俺が相手なんだから、まずはだろ、ホムホムの話からだろ、と言いたいのをグッとこらえた。
「いまでもメンバー、仲良しなんですか?」
 一瞬、嫌な予感がした。
「ホムホムと大河くんって、いまでも接点あるんですか?」
 当たってしまった。西条記者の推しは大河ということなのか。
「さあ……息子は独立してるから、よくわからないな、俺には」
 噓をついた。ケンゾーはいま、翔馬とも大河とも、一切付き合いはない。背中を向けているというより、取り残された。売れっ子になった二人とは、もう、住む世界が違ってしまったのだ。
「じゃあ、今度、訊いてもらっていいですか?」
 無邪気に、屈託なく、なんの悪気もないところが、困ってしまう。
「今度な、うん、今度……」
 腹立たしさよりもむしろ哀しさとともに受け流し、「いつも、車の中で仕事の段取りを考えてるから」と、強引におしゃべりを終えた。
 ブレイクしそこねた息子の悲運と悲哀を、あらためて嚙みしめる。いま、この瞬間も、翔馬はドラマやバラエティの収録をしているだろう。大河は舞台だろうか。低予算でも良質な映画のロケをしているのかもしれない。それに対して、我が息子は、右を骨折して、松葉杖をついて、母親がハマっている怪しげなお茶会に……。
 おちつけ。

 円卓を囲む熟年女性の視線を一身に浴びたケンゾーは、愛想笑いの陰で自分に言い聞かせた。
 いまのオレはじゃない、炎龍斗だ。生命体ガイアのにして火の山の勇者、ホムホムが、敵のアジトに潜入中――。