脳や心理学をテーマに研究活動を行い、多くの著書を持つ中野信子さん。
不安が広がる社会に、私たちはどう対応すればよいのか。
脳科学の観点から語ってくれました

周囲から「変」と言われた子ども時代

竹内現在多くのメディアで活躍なさっている中野さんですが、意外なことに、小さい頃はコミュニケーションが苦手で、人間関係に苦労されたそうですね。

中野子どもの頃は、ちょっと変な子と思われていたんです。「どんな食べ物が好き?」と聞かれても、うまく答えることができませんでしたから。「栄養価が高い食べ物は?」とか「安い食べ物は?」と聞かれれば、個々の情報や数字を考えてすぐに答えられます。でも、好きなものを一つ選ぶとなると、たくさんあるのでどう答えたらよいかわからず黙ってしまうんです。「好き」ということの意味が、よくわからないんですね。今でいうASD(自閉症スペクトラム)に近い感じだったと思います。

竹内そういう子どもたちは、コミュニケーションが苦手でも、成績はよく、特に算数や数学が得意です。

中野確かに、算数や数学は得意でした。でも自分ではそう思っていないのに、親族や周りの子から「変だよ」と言われるし、友だちがたくさんいる妹とも明らかに違う。このままではまずいと思うようになったのです。成績さえよければ何とかなるのは学生のうちだけで、社会に出たら私は落伍者になってしまう、と中学生の頃から本気で悩み始めました。それでいろいろ考え、原因は脳にあるに違いないと思ったので、自分の脳を調べて、変なところを直すために脳の研究をしようと決意したんです。

竹内自分の脳を調べるために脳科学者を目指したとは、とても面白いきっかけですね。その結果、人間関係はうまくいくようになりましたか?

中野ある程度の原因と解決策がわかったので、安心感を得ることができましたね。たとえば、今私は流ちょうに言葉をしゃべっていますが、これはすごく勉強した結果なんです。コミュニケーションは、一つ一つの言葉を別々に認識するのではなく、それらをひとまとまりの文脈として捉えることで成立します。でも、私にはそれができない。ですから、この言葉の次にはこの言葉が来るはずだと考えながら文脈を作って話します。それを自然にできるようになるまで、何度も練習したのです。

竹内それは大変な作業ですね。

中野人間の脳は、何かを目で見て認知するとき、視界に入ってくるものを一つ一つ認識するのではなく、一定のまとまりで認識する。これを専門用語で「ゲシュタルト知覚」と言います。それと同じように言語のコミュニケーションでも、言葉を統合して認識するための「ゲシュタルト知覚」が必要なのです。