科学と人々をつなぐために

人々にわかりやすく伝えることの難しさを感じています

竹内なるほど、そのお話を聞けば、不安になることを必要以上に恐れなくてよいとわかり、安心する人も多いでしょうね。中野さんがさまざまなメディアなどを通じてわかりやすく発信する脳科学の情報は、人々にとってたいへん有意義な情報になっていると思います。

中野私は、いわゆる普通の研究者とは少し違って、論文を翻訳してわかりやすく一般の方に伝えたりする、脳科学のいわば広報活動を重視しているんです。ですから、科学をやさしく伝えるサイエンスコミュニケーターとして活躍されている竹内さんのご著書は、すごく参考になります。言葉の繫ぎ方の勉強にも使わせていただいています。

竹内ありがとうございます。僕は、自分でも興味を持っているエネルギーや環境問題について、科学的見地から、人々にわかりやすく伝えたいと思っているんですが、今はその難しさも感じています。昨年の10月に、菅総理大臣は「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という、いわゆる「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、今年4月には「2030年に2013年と比べて温室効果ガスの排出量を46%削減する」という中期目標を掲げました。その達成に向けては、発電の際にCO2を排出してしまう火力発電の割合を減らし、CO2を出さない再生可能エネルギーや原子力の比率を増やす必要があります。ところが、現状では、まだ火力発電が全体の約8割弱を占めているんです。

中野8割とは衝撃的な数字ですね。それを聞くと、日本は資源がほとんどないのに燃料は大丈夫なのか、環境にはどれだけ負荷がかかるのかと誰しも不安になるでしょう。でも一般的には、危機的現状をいくら論理的に伝えても、それを理解してもらうのは難しいのです。そのためには、脳を働かせて考えなければならないからです。脳という器官は、体重の2%程度の重さしかないのに、体全体の20%ものエネルギーを消費します。ですから人は、エネルギーを温存するために、なるべく脳を使わないようにするんです。