イラスト:MARUU
阿川佐和子さんが『婦人公論』で好評連載中のエッセイ「見上げれば三日月」。今回は、お母さまの一周忌の際に弟さんと行った実家の片付けについて。捨てるつもりが思い出の品が次々とみつかり自宅へ持ち帰ることに。

母の一周忌。墓参りをするかわりに、弟ともども実家の片づけをしながら父母を偲ぶことにした。

父の職業柄、家には本が溢れ返っている。本だけでなく、家具、食器、衣類、着物、書類、手紙、写真、さらに子供たちがこの家に住んでいた時代の痕跡の数々が、後生大事にしまい込まれたままの状態だ。

親の家をいかに処分するか。売却するか、引き継いで住まうか。決める以前にとにかく家の中を整理しないと話は始まらない。人の住んでいない木造家屋を放っておけば、いずれおぞましき空き家問題の一端をなすことは目に見えている。とはいえ、一朝一夕に目算が立つような家財道具の量ではない。父が他界し、その五年後に母が亡くなった後から、弟を中心に少しずつ家の整理を始めてはいたものの、作業は遅々として進まない。

私が片づけに参加するのは久しぶりのことである。はて、どこから手をつけるか。

ケチな私が何かを見つけると、「ああ、懐かしい、もったいない……」とたちまち未練を抱き出す。その性格を熟知している弟は、私が棚や抽斗から何かを取り出すたび、

「持ち帰っても、使わないでしょ! 本だって、どうせ読まないよ!」

厳しい声で私を諭す。実際、自分でも「見たら捨てられなくなる」ことがよくわかっていたので、なるべく思い出の薄そうな箇所から手をつけようと思い定める。が、そこへ現れ出でたるは、「処分!」と表に書かれた大きなビニール袋。恐る恐る口を開いて中を覗くと、ああ、懐かしや。私の青春時代のワンピースやブラウスがクシャクシャに詰め込まれているではないか。

「やだー、私が刺繍教室に通っていた頃に作った麻のブラウスだ! まだすごくきれい」

続いて、

「やだやだ、これ、私が高校生の頃、軽井沢のブティックで買ったドレスよ。あの頃は大人っぽすぎると思ってたけど、今なら着られるかも」

さらに、

「やだやだやだ、これ、母さんと『サイケ』と名付けたノースリーブワンピース! 『ウルトラQ』のオープニングのカラー版みたいな柄だからね。どれほど愛用したことか!」

「おお、これは私が大学に入るとき、オーダーメイドで作ってもらった初めてのスーツ」

騒ぐ私の後ろで弟が静かな声で呟いた。

「今さら着ないと思うけどね。まあ、捨てたくないなら、どうぞお持ち帰りください」