もともと私は裁縫が得意ではない。裁縫より編み物のほうが好きだった。編み物は、失敗しても毛糸をほどけば何度でもやり直しがきくが、裁縫は、一度布を切ってしまうと取り返しがつかない。しかも先端の尖った針が怖い。チクッと指先を刺す恐怖が嫌だった。だから運針も楽しいと思ったことはほとんどないのに、この古いワンピースが蘇ると思うと、一針一針に気持がこもる。きれいに蘇っていく様子を見ながら縫い進む楽しさが生まれる。少々縫い目が揃わなくてもかまわない。どうせよそいきにはならないのだから、自分さえ気にしなければ問題ないだろう。縫い上げたワンピースを日にかざし、眺めてみる。

高校時代、夏休みにこのワンピースを着て友達と街へ繰り出した日のことを思い出す。きつい日差しの下、横断歩道を渡るために信号待ちをしていた自分の姿がなぜか蘇る。

続いて木綿の巻きスカート。母と兼用ではいていた記憶がある。試着してみると、ホックが留まらない。昔はこんなにウエストが細かったのかと感心するが、今の腹回りでは到底無理だ。よし、ホックの位置を変えよう。

こうしてすべての服の補修を完了し、アイロンをかけていよいよ一人ファッションショーの開始である。鏡の前に立ち、蘇った服をつけてみる。まだちょっと丈が短いか。下にレギンスをはけばどうだろう。巻きスカートはホックの位置をずらした分、巻き重ねる部分が少なくなって、歩くと太ももが露わになる。うーむ、これも下に細身のズボンをはいてみたところ、なんだか腰巻きのようである。試着に疲れて、とりあえずすべてをハンガーにかけ、眺める。はたしてこれらをこの夏、着る機会が訪れるだろうか。

「結局、着ないと思うけど」

弟の声が脳裏に蘇る。


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