人をひきつける文章とは? 誰でも手軽に情報発信できる時代だからこそ、「より良い発信をする技法」への需要が高まっています。文筆家の三宅香帆さんは、人々の心を打つ文章を書く鍵は小説の「名場面」の分析にあるといいます。ヒット作『文芸オタクの私が教えるバズる文章教室』の著者の連載。第9回は「友情」の名場面について……

第8回「《ライバル》~辻村深月『スロウハイツの神様』に見る名場面」はこちら

友情とはいったい何なのか

「友情」というと、それがどこからどこまでの関係性や感情を指すのか、わからなくなってくる。

ふつうに考えたら、恋愛ではなく家族でもない関係性は友情? でも限りなく恋愛に似た友情もあるし。職場の同僚や上司との関係は、どれだけ深くても友情といえないような気もするし。最近はやりの「推し」に対する感情は、あれは友情ではないよね? 友情とひとくちに言っても、いったいそれが何なのか、考えれば考えるほど、わからなくなる。

だからこそ小説で、あるふたりの「友情」と言えそうな、言えなそうな関係性が描かれたとき、それをなんと名付けるのかはわからないけれど、それでもグッときてしまうのだ。

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今回紹介するのは、松浦理英子の『最愛の子ども』という小説に登場する、女の子ふたりの関係性が表現された場面だ。

主人公は、とある高校に通う女子高生たち。教室で起こっている人間関係を、彼女たちはお互いじっと観察し合う。この小説の面白いところは、物語の語り手が、教室の中にいる傍観者たちであること。つまりクラスメイトが眺めた風景として、この物語は描かれる。

日夏、真汐、空穂という三人が主に主役となり、クラスメイトはその様子を描写する。それが一冊の小説となっている。