何倍も深い「裏の意味」を隠した言葉

だからこそ、「自己流でいてほしいな」という言葉には、真汐の日夏に対する切実な願望が滲み出る。きっとこれから自分たちは大人になって、そうなるともっと柔軟性が必要になり、「ダンスを自己流で踊る」なんてことはしなくなるのもしれない。日夏は器用だから、世間の型にさらりとあてはめてしまえるのかもしれない。

しかし今は、それでも自己流でいてほしい、と思う。そんな切実な感情が、ひとことから滲み出ている。

そして日夏もそんな真汐の感情を知っているみたいに、「憶えられないよ」「わたしも器用じゃないから」と答える。きっと本当にダンスのステップを覚えられないというよりは、自分らしさをこれからも失わずにいられるか、自分でも分からないからこそ、日夏はこう答えているのだ。

さりげない会話だけど、真汐と日夏の関係性が、ぎゅうっと詰め込まれた箇所だ。

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こんなふうに、友情のような恋愛のような、固有の深い関係性を描く時、ふたりの交わす言葉がなにより大切になってくる。

他人からしたらもしかすると意味がわからないかもしれない、くらいの塩梅でもいい。

とにかく、そのふたりにしかわからない言葉を交わしていること。表面的な意味の何倍も深い「裏の意味」を隠した言葉を、台詞にして発してほしい。

そういう台詞があってはじめて、読者は、「ああこのふたりには、このふたりにしかわからない感情を共有しているんだ」とわかるから。