つくば言語技術教育研究所所長の三森ゆりかさん(左)と、コラムニストのサンドラ・ヘフェリンさん(右)
学生の頃にドイツで暮らした経験がきっかけで、言語技術の世界へ入った三森さん。日独ハーフであり、日本語とドイツ語の両方を母国語にもつサンドラさん。お2人に、日本人が海外の人とのコミュニケーションをとる際に陥りがちな問題についてお話いただきました。

「赤が好き?」「うん」ではドイツで暮らせない

三森 私の研究所が主催する教員向けの研修に、関西の大学で教えているドイツ人の方が参加されたことがありました。その方がおっしゃるには、研修を受けて、自分が母語教育で何を教えられてきたのか初めて気がついた。あまりにも当たり前すぎて、何を学んでいたのか気が付いていなかったと。

一方で、何故日本人に話が通じないのかも、一度も意識したことがなかった。研修を経て、日本人にドイツ語を教える時にはどこから教えればいいかということも分かったと。

サンドラ ドイツの親が子どもを育てる時、子どもが幼稚園ぐらいの年齢になると、「単語だけを言うのではなく、必ず文章で話しなさい」と教えます。例えば赤い風船があったとして、子どもって「赤!」とか「風船!」とか言うじゃないですか。それだとドイツ人的にはダメで、「風船が赤いです」まで言わないと、文章として、言語として認められない。日本だとあまりそういう教育はないですよね。むしろそこまで厳しくしなくても……という反応です。

三森 おっしゃる通りで、幼児教育の段階から、子どもが「赤!」と言ったら、子どもの言う「赤」の中にはさまざまな思いがあるので、子どもの中で温めてあげましょう、という方針です。でも子どもの中から引き出せない限り、それは可視化できないですよね。

私はドイツ人の親と同じ教育をしています。子どもに「赤!」と言われたら、「何が赤いの?」「赤がどうしたの?」「その赤についてあなたはどう思うの?」と必ず聞いて、「僕は赤が好きです。なぜかというと……」まで言わせるようにしました。

家でも学校教育でも同じことをします。そうすると子どもたちも「単語だけで喋るのはダメなんだよね」と分かってきて、「僕はこう思います、なぜかというと……」とちゃんと言うようになった。

サンドラ ヨーロッパの国では、理由までいわないと納得してもらえないですよね。