人をひきつける文章とは? 誰でも手軽に情報発信できる時代だからこそ、「より良い発信をする技法」への需要が高まっています。文筆家の三宅香帆さんは、人々の心を打つ文章を書く鍵は小説の「名場面」の分析にあるといいます。ヒット作『文芸オタクの私が教えるバズる文章教室』の著者の連載。第10回は「動物との関係」の名場面について……

第9回「《友情》~松浦理英子『最愛の子ども』に見る名場面」はこちら

小説で動物を中心に持ってきた物語は存在しないのか?

小川洋子の小説『ことり』は、あるひとりぐらしのおじいさんと、ある一羽の小鳥の、関係性と呼べるような呼べないような、それでも「関係」と呼びたいような関わりを描いた物語だ。

小説の中心に動物を持ってくることは、案外難しい。と私は思う。

映画ならよくある。「犬と人間」「猫と人間」の関係性というのは、しばしば夏休みに見るエンターテインメント映画たちのなかに入りこんでくるテーマではないだろうか。

漫画でもよくある。飼い主の猫への溺愛を綴ったエッセイ漫画は枚挙に暇がないし、それ以外にもフィクション・ノンフィクション問わず動物を中心に持ってくることは珍しくない。

しかしそれらが成立するのは、やはり圧倒的に、ビジュアルがそこにあるからだ。

当たり前のことだが、犬や猫に限らず、動物は言葉を持たない。彼らのビジュアルが、動きが、あってこそ、そこに存在感が出るのだ。

では小説で動物を中心に持ってきた物語は存在しないのか? と言われると、そんなことはない。動物と人間の関わりを描いた物語はたくさんある。『ことり』は、その代表作ともいえるほど、動物が魅力的に綴られた小説だと思う。