夕方、会社に戻ってから、白石邸のメンテナンス報告書をパソコンでつくった。
 チェックシートの項目すべて、問題なし。報告書の締めくくりは『ご相談事項』──今回のメンテナンスでは、庭の雑草の画像を添えて、そろそろ草むしりの代行業者を入れることを提案した。
 隣家の奥さんの話も同じ欄に記すことになる。だが、孝夫はキーボードから手を離し、腕組みをして、パソコンの画面をじっと見つめた。


「どう書けばいいか困ってるんですか?」
 横から西条記者が言う。「うまく文章にまとまらないんだったら、わたし、代わりに書いてもいいですよ。ライターですから」
 悪気はないのだ。無邪気に失礼で、屈託なくゴーマンなだけなのだ。一週間も仕事に同行させていれば、少しは慣れる。慣れなきゃ血圧が上がるだけだぞ、と自分に言い聞かせながら、腕組みを解いてキーボードを叩いた。
〈なおもう一件、口頭でご説明差し上げたいことがございますので、恐縮ですがご都合の良いときに担当・水原のケータイまでお電話をいただけますか? 夜遅くや休日でもだいじょうぶです〉
「えーっ、なんなんですか、それ」
「いいんだ」
「だから、いま言ったじゃないですか。書けないんだったら、わたしが代わりに──」
「書けないんじゃない、書かないんだ。直接話したいんだ、吉田さんと」
「だったら、いま、こっちから電話しちゃえばいいじゃないですか。そのほうが話が早いでしょ」
「向こうにも都合があるんだから、いきなり電話をかけても迷惑だろ」
「だって、水原さんがウチに帰ってるときに電話かかってきたら、どうするんですか?」
「べつにいいじゃないか」
「わたしが困ります!」
 本音が出た。予想どおりだった。まったくもってわかりやすい。
 孝夫はかまわずマウスをクリックして、報告書を添付したメールを奈美恵さんに送信した。
 西条記者は「あーっ、もうっ、最低っ」と地団駄を踏むような顔になったが、そこからの立ち直りの早さと図々しさは、予想以上だった。
「あ、じゃあ、わたし、水原さんちにお邪魔していいですか? ホムホムにも会いたいし」
 孝夫は「だーめっ」と言って、両手を大きく交差させてバツ印をつくった。