人をひきつける文章とは? 誰でも手軽に情報発信できる時代だからこそ、「より良い発信をする技法」への需要が高まっています。文筆家の三宅香帆さんは、人々の心を打つ文章を書く鍵は小説の「名場面」の分析にあるといいます。ヒット作『文芸オタクの私が教えるバズる文章教室』の著者の連載。第11回は「恋愛未満」の名場面について……

第10回「《動物》~小川洋子『ことり』に見る名場面」はこちら

「一目惚れか!? 一目惚れなのか!?」

世の中に「えっ、いつこの人たちは惹かれあったんだろう」と首を傾げる物語は、多々存在する。

ふたりが恋人関係になるのはいいのだが、その手前の、出会いから恋愛感情を持つに至るまでの過程が一ミリも描かれていない。いや描かれていないだけならいいのだが、考えてみてもよくわからない。「一目惚れか!? 一目惚れなのか!?」と邪推するのだが、たいていそういう場合って、ふたりはすぐに恋人になる。お互い一目惚れなんてこの世にあり得るのだろうか。いったいなぜこのふたりは、とクエスチョンマークが五個くらい頭に浮かぶのである。最近だとジブリの映画である『風立ちぬ』は、私にとってなぜ惹かれあったのか描かれていないストーリーの代表例であった。

もちろんそういう物語って、ほとんどが恋愛を主軸に置いていない話だから、割愛しているだけなのはわかる。しかし、それでも私は、せめてなぜお互いが惹かれあっているのか、その理由だけでもそこに描かれていてほしい。言葉にしなくてもいいから、必然性を持たせてほしいのだ。

そんなわけで、今回紹介するのは「恋愛未満」の関係性の描写。

決定的に誰かを好きになったその瞬間を描くのはダサいかもしれないけれど。読者にほんのりと「あ、このふたりって恋人になるんだろうな」と予感させるくらいは、してほしい。そして、予感させる理由をそこにエピソードとして盛り込んでほしい。私の好みの問題だが、読者として心からそう願っているのだ。