『純情エレジー』豊島ミホ・著、新潮社(「あなたを沈める海」収録)

「高三の夏の、保健室でのことだった」

「恋愛未満」の関係性を描いた名場面として挙げるのは、豊島ミホの短編集『純情エレジー』に収録された「あなたを沈める海」の一場面。

高校生の遥は、同級生の男子・照が堂々と小説を書いていることに、やや引いている。彼は休み時間も一心不乱に小説を書き、それを隠そうともしないのだ。

周りからは笑われるような自分の夢を、はっきりと口にし、それを迷わない同級生。彼に対して、遥は最初そこまで興味を持っていなかった。

しかしある日保健室で、彼の姿を見たときから、遥のなかで照の存在が変わる。その瞬間を描いたエピソードである。

私がこのエピソードをとても好きな理由は、遥から見た照が、理解できるようで理解できない、そのぎりぎりのラインのところにちょうど存在しているからだ。

というのも、これ、「恋をさせる魅力とは何か?」をものすごく端的に表現したシーンだと思うのだ。