人をひきつける文章とは? 誰でも手軽に情報発信できる時代だからこそ、「より良い発信をする技法」への需要が高まっています。文筆家の三宅香帆さんは、人々の心を打つ文章を書く鍵は小説の「名場面」の分析にあるといいます。ヒット作『文芸オタクの私が教えるバズる文章教室』の著者の連載。第12回は「恋人関係」の名場面について……

第11回「《恋愛未満》の関係 ~豊島ミホ「あなたを沈める海」に見る名場面」はこちら

私が会話フェチなだけ?

私が恋愛小説というジャンルに何をいちばん求めているのかといえば、会話である。
いや、世の中の恋愛小説に対して言いたいことはたくさんあるのだが、それにしても、一にも二にも会話である。いい会話を読みたい、そのために私は恋愛小説を読んでいるフシがある。

くだらないけどそこにしかない会話を読みたい。そのふたりにしかできない会話を読みたい。ちゃんと血の通った会話を読みたい。そういう欲求を満たしてくれるのが小説だ。しかも、ちゃんと恋愛しているふたりの会話。距離の近しい会話というのは、恋人たちに残された数少ない特権なのではないか、と思うときがある。自分が会話フェチなだけなのかもしれないが。

というか、ふたりの会話もなしに、恋人であるという事実を読者にわからせることなんて無理じゃないか。