規範に従うか、従えないのか

そもそも学生時代というのは、自由であるようで意外と縛られていて、そこから自分の力でなかなか抜け出せない時期なのだと思う。社会や親の決めた規範に従わされるけれど、その規範にぼんやりと不満を覚えており、だけどそこから抜けだすにはまだ力が足りない。そしてそれは『アンソーシャル ディスタンス』で描かれる、感染症が流行する時代なら、尚更だ。

感染症流行という未曽有の事態がやってきて、それにまずは対応しなくてはいけない。だけどそれによって切り捨てられたものに対して、誰も、何の責任もとってくれない。失ったものは何もかえってこない。それでも、誰にも責任をとってもらえないまま、その規範に従うしかないのだ。

『アンソーシャル ディスタンス』という小説は、この「規範に従うか、従えないのか」という葛藤がひとつのテーマになっている。世間が決めた規範にうまく従っているように見えて、それでも生きづらさを感じている幸希と、そもそもうまく従うことができない沙南。そのふたりの恋人関係を描いた物語なのである。

幸希から見て、沙南は自分がなかなか超えられない規範を、さらりと超えているところに惹かれる。反対に沙南は、なんだかんだ規範を超えずに生きている幸希に惹かれている。

幸希の母親は、沙南と付き合っていることに批判的である。そしてコロナ騒ぎと父親の浮気によって、最近はさらに神経質になっている。そんな母親の様子を見た幸希は、「さっさと沙南と結婚してしまうのもいいかもしれない」なんてぼんやりと夢想する。