イラスト:MARUU
阿川佐和子さんが『婦人公論』で好評連載中のエッセイ「見上げれば三日月」。今回は、オリンピックの開会日に行われたブルーインパルスのアクロバット飛行を我がマンション屋上にて隣人家族と共に鑑賞した時のお話――。

※本記事は『婦人公論』2021年9月14日号に掲載されたものです

この記事が掲載される頃には旧聞に属するであろうことながら、我がマンション屋上にてブルーインパルスを鑑賞した。

十二時四十分開始という情報を耳にして、ベランダから見えるかなあと暢気に構えていたところ、隣家のご主人よりメールが届く。

「今、家族で屋上に来ています。もうすぐ始まりますよ」

そうかそうか、屋上という手があったかと、慌ててアッパッパを脱ぎ捨てて、少しマシな恰好に着替え、マスクをつけ、鍵をじゃらじゃら鳴らしながらエレベーターに飛び乗った。

炎天下の屋上に出てみれば、同じマンションの住人たちがすでに二十人ほど集まって、まぶしい青空を仰いでいた。

「アガワさん、こっちこっち!」

四歳になるお隣のユリカちゃんが、汗だくだくのクシャクシャ笑顔で手招きしている。後ろにはユリカちゃんのご両親と中学生のお兄ちゃんの姿もある。

最近、私はユリカちゃんと仲良しだ。この四月から通い始めた幼稚園の制服姿も見せてもらったし、我が家にお菓子や果物が届くと、即座にユリカちゃんの顔が浮かぶ。

お隣の玄関をピンポンし、まもなくバタバタとユリカちゃんの走ってくる足音がしてドアが開く。私の持っている紙袋を受け取って「ありがとう」と恥ずかしそうに微笑む顔を見るのが何よりの楽しみだ。ときどきお母さんとお喋りをして、私が「ヤバイっすね」なんて言うと、ユリカちゃんが顔をゆがめて、

「それ、女の子が使う言葉じゃないのよ」

お叱りを受ける。歳を取ると子どものエネルギーが何よりの元気の素になるというのは本当だ。彼女は今、私にとって最年少の親友である。さて屋上にて、

「ぎりぎり間に合ったあ」

「どうもー」

なんてご挨拶もそこそこに、

「あ、来た!」