「一番近くにいるけど遠い背中なのよね」

もしかしたら、レオンに神だとまで言わせなくても、宝塚の世界に詳しい人なら、ふたりの間にある距離を一瞬で理解するのかもしれない。トップスターと一劇団員の間にあるその距離を。

しかしこれは小説なので、宝塚歌劇団のことをよく知らない人も読むだろう。「同じ劇団内であっても、ふたりの間には明確に遠い距離があって、そしてこの時点からふたりは師弟になったのだ」と瞬時にわかってもらわなくてはいけない。そのために作者はレオンにこの台詞を言わせたのだと思う。

師弟関係に年齢は関係ない。立場すら関係ないかもしれない。師弟だと決まったら、その瞬間から、ふたりの間に距離はひらくのだ。というか「距離がひらいているもの」という前提のもとに、弟子は師を神だと思って真似し始めるのだと思う。その姿勢こそが、レオンの言う通り、芸の道を精進させる。自分はまだまだだ、もっと成長しないと、と弟子は思うからだ。

師弟関係の本当のところを描いた、名場面だと思う。

実際、この場面の後で、あわじが同期のみずかにレオンについて質問したとき、みずかはこう答える。

「でもあわじぃ、レオンさんの肝心なことは私何も教えてあげられないや。一番近くにいるけど遠い背中なのよね」と。

みずかはあわじの同期として入団したにもかかわらず、トップ娘役に抜擢され、レオンの相手役を務めている。物理的に近くにいたとしても、現実的な立場がたとえ変わらないとしても、それでも、「一番遠い背中」なのだ。

そう認識する人物のことを、人は師と呼ぶのである。