滑落事故に遭っても
絶対にあきらめなかった

あきらめないということには、すごく大きなパワーがあります

竹内でも、ものごとは計画通りにいかないものです。南谷さんの場合も、決して順風満帆ではありませんでした。長野県の阿弥陀岳では滑落事故に遭い、死を覚悟したそうですね。

南谷アコンカグアの次に登ったのが日本の阿弥陀岳で、八ヶ岳連峰にある標高2805メートルの山です。私にとっては、ちょっとした練習という軽い気持ちの登山でした。ところが、下山途中でロープが足に絡まり、それをはずそうと踏ん張ったときに足下の雪が崩れ、私は真っ逆さまに落ちていきました。猛スピードで落ちているのに、頭の中はスローモーションで、これまでの人生が走馬灯のように蘇って……。死を覚悟すべき状況ですが、私はまだエベレストに登っていないし、やり残したことがたくさんある。だから、「死にたくない!」と最後の力を振り絞って叫びました。すると不思議なことに、急斜面の途中でピタッと滑落が止まったんです。

竹内「女子高校生が奇跡の生還」と、メディアでも報道されました。その経験は、南谷さんにどんな影響を及ぼしましたか?

南谷よく考えれば判断次第で防げた事故だったので、自分の愚かさに腹が立ち、激しい自己嫌悪に陥りました。自信をなくして、「もうやめたほうがいいよ」という声が、何度も頭のなかでこだまして……。

竹内それでも挑戦を続けたのはなぜですか?

2016年5月23日、19歳でエベレストに登頂し日本人最年少記録を更新した(写真提供◎南谷さん)

南谷ここでやめたら、私は一生悔やみ続けるに違いないと思ったからです。そう思った瞬間に、必ずやり遂げてみせるという最初の覚悟が蘇り、私は万全な準備と安全対策を整えて、再び次の山に向かったのです。でも、山の洗礼はそのあとも容赦なく続きました。無念のリタイアや同じチームの仲間の死、薄い空気のなかで体が動かず、一歩進むのに30秒以上かかることも。激しい嵐に遭遇して再び死を覚悟することもあり、そのたびに挫けそうになりました。でも、阿弥陀岳での奇跡に感謝し、与えられた命に対する責任を果たすんだ、と自らに言い聞かせ、あきらめずに前に進み続けたのです。

竹内あきらめないということには、すごく大きなパワーがあります。僕が主宰しているプライベートスクールの子どもたちにも、南谷さんの挑戦のことを聞かせて、ぜひあきらめない気持ちの大切さを教えたいです。日本の学校教育ではテストの点数を重視しがちなので、子どもたちは、テスト結果が悪いとやる気をなくしてしまうことがあります。でも、結果より過程が大事ですから、あきらめずに、どれだけ辛抱強く頑張れるかが重要。子どもたちには、あきらめないという経験を積み重ねることで、たくましく生き抜く力を身につけてほしいんです。

南谷私も、小さいころの日常の頑張りはとても大切だと思います。自分の子ども時代を振り返ってみると、ピアノのレッスンや算数の計算問題など、できなくても何度もトライし、けっこう粘り強く取り組んでいました。そうした経験が、エベレストへの挑戦でも、あきらめずに進むための原動力になったと思います。