口うるさい夫であり、父親だった。
観ているテレビ番組から化粧、服装、椅子やソファーへの座り方、つまんでいる飲み物やお菓子に至るまで、説教と小言を言い通しだった。
最初から文句をつけるつもりはない。ただ、奈美恵(なみえ)さんや詩織さんを見ていると、否定するというより、期待の裏返しというか、どうにかならないか、という思いがつのってしまう。
「たとえばネット配信で昔のドラマとか観てるでしょ。そんなの観るより、もっと役に立つものはあるだろう、時間がもったいない……と言いたくなるんです。特に詩織はまだ若いし、やっぱりこっちも親ですから、言いたいことも増えます」
化粧や服装も、オトコの性的な視線が実感としてわかるだけに、もうちょっと考えたほうがいいんじゃないか、と一言言わずにはいられない。
口に入れるものだって、わざわざジャンクなものを選ぶ理由がわからない。もっと体にいいものはいくらでもあるだろうに……。
先週と先々週、ひとりぼっちでリビングで過ごしながら、詩織さんとの思い出をたどっていた。
すると、気づいた。
「そこの椅子に座った詩織と話すときって、ほとんどがお説教なんです。楽しそうに笑ってるあの子の顔を思いだしたいのに、浮かんでくるのは、ふてくされた顔ばかりなんですよ」
いまも、そう。どんなにしても、笑顔で父親と話している詩織さんの姿が出てこない。
「この家を建てたのはあの子が中学に上がるタイミングだったから、まさに思春期の、扱いづらい年頃がすっぽり入るわけです。まいっちゃいますよね、嫌な思い出の容れ物を、わざわざ二十年ローンを組んで買ったわけですか? まいっちゃいますよ、ほんとに、まったく……」
離婚前の数年間は、しょっちゅう夫婦で諍(いさか)っていた。大きな揉めごとというわけではなく、ほんのささいなことで、とげとげしい言葉が行き交う。
奈美恵さんは、よくこんなふうに言っていた。
あなたと一緒にいても楽しくない──。
詩織さんも、決まって母親の味方についた。
パパって、いろんなことを全部つまらなくする天才だよね──。
問わず語りの白石さんの話に、孝夫は最小限の相槌を打つだけだった。
よけいなことは言いたくない。よかれと思って小言を並べてしまう白石さんの気持ちもわかるし、それがただの口うるさいおせっかいにすぎないことも、わかる。
俺はだいじょうぶだよな、そこまでじゃないよな、と美沙(みさ)やケンゾーの顔を思い浮かべ、自分と白石さんとの距離を確認しつつ話を聞いていた。
二本目のビールになった白石さんは、酔いが回ってきたのか、少しくだけた様子で、孝夫にとって因縁浅からぬテレビ番組の名前を口にした。
「十年ほど前の特撮ヒーロー番組に、『なんとかかんとかネイチャレンジャー』ってのがあったんですよ」
『ガイア遊撃隊ネイチャレンジャー』──ケンゾーの、出世作にして、唯一のヒット作にして、最初で最後のメジャー作品……になるのか……。