ブレイディみかこさんが『婦人公論』で連載している好評エッセイ「転がる珠玉のように」。今回は「現時点はどこ?」。段階的に緩和されるロックダウンに、「いまはロードマップのどこにいるの?」という疑問が浮かんでーー。(絵=平松麻)

「ロックダウン解除へのロードマップ」とは?

ロックダウンが厳格に行われていたとき、われわれの生活は冬眠のようなものだった。外に出られない。人に会えない。とりあえず全部ストップする。非常にシンプルだ。が、このロックダウンというやつは、明けるときは一気に明けるものではなく、段階的に緩和される。

例えば、飲食店は屋内のテーブル席はダメだけど、屋外のテーブル席なら利用OKとか、人と会うのは屋外で6人までなら許可されるけど、屋内でほかの世帯の人と交流するのはNGとか、こうした細かい規則が作られ、いくつかの段階を経て少しずつ規制が緩くなる。英国でも、1月初旬から始まったロックダウンが、3月半ばから幾度かのルール変更を経て、全面解除に向かって少しずつ進んできた。

そしてこの段階になってくるとよく聞かれるのが、

「それで、わたしたち、いまどこにいるの?」

という言葉だ。現時点で具体的に何をどうするのが許されているのか、わからなくなってしまうのだ。政府は「ロックダウン解除へのロードマップ」とか言って「*月*日、**ができるようになる。*月*日、**も**する限りにおいて**してよい」みたいなことを細かく記した日程表を発表する。しかし、その詳細な記述を暗記している人はほぼいない。だから、いまそのマップ上のどこに自分たちがいるのかわからなくなる。

さらに雲行きを怪しくさせているのは、ワクチン接種が快調に進んでいるにもかかわらず、再びデルタ株(インド型変異株)感染が拡大していることだ。これで全面解除の可能性が翳ってきた。おかげで、旅行、結婚式、子どもの誕生日パーティー、地域のイベント等々、すべての計画が宙ぶらりんの状態で、誰も「確定」という足場に立って物事を進めることができない。