ブレイディみかこさんが『婦人公論』で連載している好評エッセイ「転がる珠玉のように」。今回は「アニバーサリー(命日)」。人生を謳歌し、イビサ島に1人しかいない装蹄師だった義兄。私たち2人はとても馬が合ったーー。(絵=平松麻)

英語では命日のことも「アニバーサリー」と言う

「アニバーサリー」と日本語でググってみると、記念日のケーキの通販サイトとか、「松任谷由実─ANNIVERSARY〜無限にCALLING YOU〜」の動画とかが上がってきて、なんとなくスウィートでロマンティックな言葉っぽい。しかしながら、英語では誰かの命日のことも「アニバーサリー」と言う。

昨日は義理の兄のファースト・アニバーサリーだった。つまり、「一周忌」である。

うちの連合い(なぜ「れ」抜き表記に拘るのかはまた別の機会に)はロンドンのアイルランド移民の家庭に生まれた。一番上の姉はたいそう反抗的で元気がよく、18のときにさっさと1人でスペインのイビサ島に渡り、そこで好きな男性を見つけて永住した。それが昨年亡くなった義兄である。

彼はスペインとフランスの国境近くで生まれ育った。フランス国籍ながら、スペイン語もカタルーニャ語も話せたし、英語も堪能でドイツ語もできた。こう書くと、インテリ層の人かと思われそうだが、実はアウトドア派で、馬の装蹄師だった。イビサ島に馬? と不思議に思うかもしれない。しかし、芸能人や芸術家などのセレブがイビサに広大な別荘を持つと、次に欲しくなるのは馬らしく、昔は島に1人しかいない装蹄師だった義兄は大忙しだった。(ちなみに、いまは3人いるらしいが、いずれも義兄の弟子だという)