義兄の命日に義姪から動画が送られてきた

それでも彼が亡くなって2週間が過ぎた頃、義姉がぽつりと言った。

「責められないよね」

一番つらい現場を発見してしまった義姪も、「彼が選んだことだから責めない。そうしたくとも、笑顔を思い出すと難しい」とビデオ電話で泣き笑いしていた。

また自由にイビサ島に行けるようになったら、わたしもあの笑顔を空港で探すだろうなと思った。いなくなったとはとても思えない。

あれから1年過ぎてもコロナ禍は続いている。おかげでまだイビサには行けないが、義兄の命日に義姪から動画が送られてきた。そこには意外なものが撮影されていた。義姉が裏口のドアを開けると、あっと驚くほど大きな鳥が彼女たちの家の裏庭にいるのである。

数ヵ月前になぜか孔雀が飛来してきて、以来、住み着いているという。朝晩ちゃんと餌もやっているそうだ。裏庭で孔雀を飼っている民家なんて考えただけでごっついが、「アレクサンダー」という名前すらつけているらしい。

野性味あふれるイビサ島内陸部ならではの話だが、羽を広げた孔雀を見ていると、義姪がこれを送ってきた理由がわかる気がした。

「孔雀が人間に求愛のポーズをとってどうするの?」

義姉が笑いながら話しかけると、アレクサンダーは巨大な扇のような羽をゆさゆささせて仁王立ちしていた。その誇らしげな姿は、空港に立っていた人にどこか似ている。