イギリス在住のブレイディみかこさんが『婦人公論』で連載している好評エッセイ「転がる珠玉のように」。今回は「カミング・ホーム狂騒曲」。7月前半の英国は東京オリンピックどころではなくユーロ杯一色。イングランド代表応援歌「スリー・ライオンズ」を熱唱していたーー。(絵=平松麻)

オリンピックよりW杯かユーロ杯のほうが盛り上がる

これを書いている(2021年)7月前半の時点では、英国は東京オリンピックどころではない。なにしろ、フットボール(サッカー)のユーロ杯が開催中だからである。もともと英国は、オリンピックよりフットボールの国際大会のほうが盛り上がる。国際大会とはW杯とユーロ杯のことである。

どちらも4年ごとに開催されていて、2年ごとにW杯かユーロ杯のどちらかが行われている。

昨夏開催予定だったユーロ杯は、東京オリンピック同様にコロナで1年延期となった。従来なら1ヵ国、または2ヵ国が開催地に選ばれるが、今回は欧州10ヵ国での分散開催でもある。イングランドもそのうちの一つに選ばれ、代表チームの試合の一部は国内で行われていて、そのせいかどうかは謎だが、いつにない快進撃を見せている。だから、公式には7月19日までロックダウンは完全解除されないにもかかわらず、スタジアムでイングランド戦を観ている人たちは、ソーシャルディスタンスもへちまもない密集ぶりだ。ガンガン唾をとばしながら、肩を組んでイングランド代表の応援歌を熱唱している。

最も有名なイングランド代表応援歌は、「スリー・ライオンズ(フットボールズ・カミング・ホーム)」である。「イッツ・カミング・ホーム、イッツ・カミング・ホーム、イッツ・カミング、フットボールズ・カミング・ホーム」というサビ部分を延々と繰り返すことで知られている。要するに「フットボールが故郷に帰ってくる」とみんなで連呼しているのだ。試合開始のとき、代表チームが窮地に立ったとき、負けたとき、勝ったとき、いつだってサポーターたちはこの歌を歌っている。