✻

 オオカミの先生の診療所は町のはずれの目立たないところにひっそりとありました。診療所といっても、看板を掲げているわけではなく、ごく普通の小ぢんまりとした家屋です。
「お名前は?」
「イドといいます」
 曇り空の午後でしたから、窓から差し込む光はわずかでした。イドはオオカミの先生と差し向かいに座り、その見事な銀色の頭髪に見とれていました。たしかに立派なオオカミのたてがみを思わせ、しかしよく見ると、その一本一本は銀色の糸のようです。何かとても強いものでありながら、どことなく儚げなものが感じられました。それはまた先生の声色にもあらわれていて、
「つまり、お父様は大風にさらわれてしまったのですね」
 明快でありながらも静かに先生はそう言いました。顎を上げて窓の外の曇り空を眺め、あたかも、そこにイドの父親の姿が見えているかのようです。
 イドもつられて窓の外を眺めました。
 すると、窓のそばの壁に、横長の額がいくつも飾られているのに気づきました。額は子供が両手をひろげたくらいの横幅で、前面はガラスで守られています。中に収められているのは、さて、何でしょう。少なくとも絵画ではありません。

 種かな?
 イドはまずそう思いました。横長の額の中に、ひとつ、ふたつ、みっつと数えていくと、種に見えたものが等間隔で八つ並んでいます。そうした額が壁にいくつも飾られていて、
「もし、気になるのなら、近くでご覧なさい」
 先生に言われて、イドははじかれたように立ち上がりました。額の前に立って目を凝らすと、どうやら植物の種ではないようです。しかし、何であるかは分かりません。ちょうど小麦ひと粒くらいの形と大きさでしたが、いずれも真っ白で艶があり、ぼんやりとほの暗い部屋の中で、その小さなものだけが白く発光しているように見えるのです。
「ヴァンパイアの歯ですよ」
 いつのまにか先生がイドの背後に立っていました。