人をひきつける文章とは? 誰でも手軽に情報発信できる時代だからこそ、「より良い発信をする技法」への需要が高まっています。文筆家の三宅香帆さんは、人々の心を打つ文章を書く鍵は小説の「名場面」の分析にあるといいます。ヒット作『文芸オタクの私が教えるバズる文章教室』の著者の連載。第14回は「家族」の名場面について……

第13回「圧倒的に遠い《師弟関係》 ~中山可穂「銀橋」に見る名場面」はこちら

血縁がなくとも「家族」を感じさせる描写

吉本ばななの小説を読むと、いつも「家族」の定義について考えさせられる。

小説で家族だなあと読者に感じさせるのは意外と難しいのかもしれない。血が繋がっていれば家族、というわけでもないし。一緒に住んでいたら家族、というわけでもない。

しかし吉本ばななの小説は、たとえそこに血縁がなくとも「家族」を感じさせる描写が多い。

きっと彼らは家族なんだろうなあ、と読者に思わせるのだ。

家族の定義とはなんだろうか。今回紹介する『キッチン』を読む最中も、考えてしまう。

 *

『キッチン』の主人公みかげは、大学生だが、幼い頃に両親を亡くし、その後育ててくれた祖父母も亡くしている。家族がこの世からいなくなったみかげは、ある日出会った雄一の家に住むことになる。雄一の家庭も複雑ではあったが、みかげは彼らに馴染んでゆく。

『キッチン』をさらりと読むと、みかげと雄一は恋愛関係になるのだろうか? と想像してしまう。いきなり一緒に住み始めるし、ふたりは何か通じ合っているようにも見える。

しかしこの物語は、あくまでみかげと雄一を「家族」として扱う。

ふたりが「家族だからだよ」と確認する場面もあるが、それ以外にも、ふたりの関係性を家族として描いている場面がある。