逆風のなか、とにかく古典を読んだ

自分の人生の最大の転換点は、50歳より少し早い42歳の時。仲間と創業した経営コンサルティング会社、コーポレイトディレクションの社長から、政府が設立した10兆円の産業再生ファンドである産業再生機構の最高業務責任者に転身するときでした。

当時の小泉政権が長引く不良債権問題と金融危機を克服すべく、「産業と金融の一体再生」というコンセプトで立ち上げた目玉政策でしたが、一般的には評判が悪く、メディアや評論家の多くは、失敗して10兆円の多くをどぶに捨てる結果になるだろうと予測していました。

その選択を前に、手元にある古典をとにかく読んだ記憶があります。シェイクスピア、論語、聖書などからつまみ食いしたり、若い時に読んだ内村鑑三の『後世の最大遺物』やカエサルの『ガリア戦記』を読み返したり、かつてビジネススクールの授業で使ったマキアヴェリの『君主論』も改めて手に取りました。最近のものでは、知り合いも登場し、かつ日本的エリート組織の失敗を描いた古典的名作である猪瀬直樹さんの『昭和16年夏の敗戦』も読みました。

 

後悔しない選択にたどり着く

もちろんスッキリした答えをそこで手にできたわけではありません。しかし、そこには当時の自分の思いと、それまで目にしてきた日本社会の馬鹿さ加減と素晴らしさ加減とが色々な意味で重なり合う物語がたくさんありました。

そして、これから自分が本当にやりたいことは何なのか、人生の選択として仮に失敗したとしてもあとで後悔しない選択は何なのか、にたどり着くための示唆を多く得ることができました。

また、ああいう心境で読むことで、若い時に見えなかった古典の凄み、たとえば『オテロ』の真の主役は、全ての人間に潜んでいる悪人・イアーゴ的な「業」(ごう)であることや、内村鑑三の言う「勇ましく高尚な生涯」が最大遺物たる本義が分かってきました。

『昭和16年夏の敗戦』は、日本の古くて大きな企業や金融機関の根源的な病理について、自分が持っていた仮説を確信に変えてくれました。それは私たちが産業再生と不良債権問題に立ち向かう基本方針として、空気を読まず、調和を求めず、ことを荒立てても原理原則を貫いていく基盤となりました。

門前の小僧習わぬ経を読む、という言葉がありますが、50歳にしてその経の意味を知るのかもしれません。50歳を機に、本棚にある古典に手を伸ばすことをお薦めします。

 

ガリア戦記』カエサル著/石垣憲一訳 平凡社ライブラリー 2009年
君主論 新版』マキアヴェリ著/池田廉訳 中公文庫 2018年
シェイクスピア全集13 オセロー』シェイクスピア著/松岡和子訳 ちくま文庫 2006年
後世への最大遺物・デンマルク国の話』内村鑑三著 岩波文庫 2011年
昭和16年夏の敗戦 新版』猪瀬直樹著 中公文庫 2020年

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