白石さんにも当てはまるだろうか。当てはまってほしい、と祈りながら歩いた。
 角を曲がる。三軒先が、かつての我が家──。
「見つけてください」
 孝夫は白石さんの背中に声をかけた。「家族の楽しかった思い出を、取り戻してください」
 ドアを開けて玄関の中に入った白石さんは、孝夫にうながされて「ただいまー」と言うと、ため息交じりに苦笑した。


「さっそく一つ思いだしました」
 玄関に入ると、リビングで奈美恵さんや詩織さんが観ているテレビの音が聞こえてくる。
「たいがいバラエティーとかドラマなんです。あとは歌番組かな」
 NHKでニュースをやってる時間もね、と付け加えた。その皮肉めいた口調に、嫌な予感がした。
「まだ詩織が中学生や高校生だった頃は、それがどうにも気になって……」
「おかえりなさい」「ただいま」の挨拶もそこそこに、「またそんなくだらないものを観て」と顔をしかめてしまう。「そんなのよりニュースを観ろよ、夕刊読んだのか?」などと言ってしまう。
 やはり──そうだった。
「最初の頃は、詩織としょっちゅう口ゲンカでした。あいつも小学生の頃は素直に言うことを聞いたのに、だんだん難しい年頃になってきたし、私もこの家を建てて、一国一城の主になって、子育てもカミさんに任せきりにはできないぞ、って。ちょっと張り切りすぎてたのかもなあ……」
 白石さんと詩織さんがぶつかると、奈美恵さんは詩織さんをかばいつつも、基本的には白石さんの側についていた。
「それはそうですよ。こっちは間違ったことを言ってないわけだし。私、カミさんにも説教してたんですから。おまえがつまらないテレビを点けてると詩織に示しがつかないだろう、って」
 中学二年生、三年生と、「難しい年頃」のピークに差しかかると、詩織さんはリビングに寄りつかなくなった。テレビは予約録画をしておいて、白石さんが帰宅する頃には自分の部屋にこもってしまうのだ。
 一方、奈美恵さんも、小さなサイズのテレビを買ってダイニングキッチンに置き、料理をつくったり本を読んだりしながら、自分の好きな番組を観るようになった。
 帰宅しても、もうリビングからにぎやかな音や声は聞こえない。詩織さんは二階の自室、奈美恵さんはダイニングキッチン、そして白石さんはリビング……それぞれの居場所ができてしまった。
「高校時代は、カミさんと娘もあんまりしっくりいってなかったみたいです。私のほうも、接点が少ないぶん、たまに娘の顔を見ると、もう、髪の色から化粧からスカートの丈まで、言いたいことが次から次に出てきちゃって」
 そんな詩織さんが大学に入ると、リビングは再びにぎやかになった。奈美恵さんと詩織さんが、ドラマやアイドルやゲームやエクササイズなどを一緒に愉しむようになったのだ。
「母親と娘って、娘がある程度の歳になると、友だちみたいになるんですね。二人並んでテレビの前で、なんとかブートキャンプですか、アメリカの軍隊の体操みたいなのを汗だくでやってるわけですよ」