「リハビリは現状維持を目指すものにすぎません。すでに66歳、完全に元の身体に戻るのは不可能とわかったときは声をあげて泣きました。死を考えたこともあります。」(撮影:安保文子)
2014年3月、脳出血に倒れた塩見三省さんの左半身には後遺症が残りました。懸命なリハビリの末、出演した映画『アウトレイジ 最終章』では、数々の映画賞を受賞します。今も杖なしに歩くことはできませんが、病を得て深く考えるようになったという自らの老い、そして今の体で生きていくことについて語りました(構成=山田真理 撮影=安保文子)

「私は生きている」という実感しかない

66歳で病気をするまで、どちらかと言えば私は健康に自信があるほうでした。ジムに通ったりランニングをしたりするのは性に合わなかったけれど、40代後半で始めたテニスは暇さえあればコートに立つくらい好きで。年齢を重ねて続けられるのがテニスのよいところだ、とも思っていました。

俳優はチームワークによって成り立つ仕事ですから、たとえ一人でも欠ければ周りに大きな迷惑がかかります。特に私は長いスパンで取り組む仕事が好きでしたので、数ヵ月から1年といった長丁場の間に体調を崩すようなことがあっては困る。年に一度の人間ドックはもちろん、現場に入る前の健康チェックも欠かさず、問題なく過ごしていたのです。

確かに、倒れるまでの1年ほどは、それまでにない忙しさではありました。理由は、どの仕事も「ほかのヤツがやるのは嫌だな」という魅力的なものばかりだったから(笑)。映画が2本、大河ドラマなどの連続ドラマが3本、CMが2本、アート展用の銅版画制作……。

夢中で取り組んだことに、後悔はありません。ただ毎週のように新幹線で東京と2つの地方を往復したこと、その年の厳しい冬の寒さなども重なったのでしょう。今思えば、血圧も少々高かったのかもしれない。でも血圧ってちょっと高いくらいが「お、調子がいいな」と感じたりするものじゃないですか。