人をひきつける文章とは? 誰でも手軽に情報発信できる時代だからこそ、「より良い発信をする技法」への需要が高まっています。文筆家の三宅香帆さんは、人々の心を打つ文章を書く鍵は小説の「名場面」の分析にあるといいます。ヒット作『文芸オタクの私が教えるバズる文章教室』の著者の連載。第15回は「学校」の名場面について……

第14回「血縁がなくとも《家族》を感じさせる描写 ~吉本ばなな「キッチン」に見る名場面」はこちら

小説に奥行きをもたらしているもの

小説の名場面について解説してきた本連載。これまで「関係性の変化」「さまざまな関係」、つまりは人間関係をどう描くか、というところについてあれこれ紹介し解説してきた。

物語は、人間関係の中で進むことが多い。主人公がいて、その周囲に人間がいて、その関係性が変化しつつ、物語が展開される。関係性の種類はたくさんあるし、物語のなかでどれくらい関係性が変化するのかも、物語によって異なるだろうけれど。

しかし一方で、「では主人公が今どういう状況にあるのか?」を語ることもまた、小説において大切な作業だと私は感じる。

人間関係や起こった出来事ではなく、主人公がいる場面設定の描写。それこそが小説に奥行きをもたらしているのでは!? ということだ。

なぜなら、小説には映像や絵が存在しないから。

映画や漫画ならば、主人公がどこにいるかを語るのは、主人公の背景である。学校のセットのなかで撮影されていれば学校の話だとわかる。会社の絵が描かれていれば、主人公は会社にいるんだとわかる。その背景がある程度きちんと描かれて、あるいは映っていれば、納得できる。

でも、小説の場合はちがう。

状況をわかってほしいなら、わざわざその描写を書き込まなくてはいけない。

常々思うのが、小説というものは「何を書いて」「何を書かないのか」、ものすごく作者の裁量が大きい媒体だということだ。映画なら背景は基本的に画面にうつる。でも小説は、わざわざ見せたい背景のみを文章で書く。見せたくない背景は書かなくていい。

ならば、主人公の状況を、小説たちはどう描いてきたか? 映画や漫画の「背景」に当たる部分を、はたして小説はどうやって綴ってきたのだろう? この連載ではそこを考えたいと思う。

というわけで! 今回からは「場所の描写」について書きたい。