全部UKの音楽じゃないか

そりゃ確かに日英で同時に閉会式を観るのは斬新な企画ではあるが、通訳者は休日も無償労働である。

「スカは日本の音楽じゃないだろう」

東京スカパラダイスオーケストラの演奏を観ながら、連合い(くどいようだが、「れ」抜きにする理由はそのうち書きたい)がぼやく。彼は開会式のときも「大事な場面で使われているのは全部UKの音楽じゃないか」と嫌味を言いながら、なぜか満足そうに笑っていた。彼だけではない。英国の音楽が他国のオリンピック開会式で使われていたことは妙に英国の人々の自尊心をくすぐったようで、同じようなことを(どこか嬉しそうに)指摘した知人・友人は複数いる。

しかし、東京スカパラダイスオーケストラは、フランスのシャンソンの「愛の讃歌」やベートーベンの「歓喜の歌」を演奏していたので、今日は連合いも突っ込みようがないだろう。と思っていると、

「なんだなんだ、今度はヨーロッパの曲ばかり。日本はEUにでも加盟する気か」

と、意地でも皮肉を飛ばしたいらしい。ここで実家の犬が咬むと音が鳴るぬいぐるみで遊び始めたため、日英の会話に「キュッ、キュッ」というサウンドも加わり、通訳者にはスカイプの音声が聞き取りづらい。

すると、「お、台風速報になったばい」と親父が大きな声を出す。「いかん、鹿児島におるげな。っちゅうことは、こっち来るとは夜中やな」「うわ、朝の4時ぐらい?」と親父と妹がしゃべり始める。台風情報まで英国の家族に通訳せねばならなくなった。